松井今朝子「吉原手引草」の感想

松井今朝子直木賞を受賞した作品「吉原手引草」を読んだ。
彼女の作品は初めて読んだ「非道、行ずべからず」ではまり、捕物帳の並木拍子郎シリーズを経て、きっとこの人なら大丈夫と思えたのでやっと受賞作品を読む気になった。
もともとは受賞したから知った人なんだが個人的には直木賞作品はどうも当り外れが激しく、用心してみた。ハードカバーで外れを引くのは切なすぎる。


で、読み終わって個人的には、やはりこの人を信じて良かったと思えた。とても面白かった。しかし、人を選ぶ作品であり、直木賞だからと思って読んで挫折する人もいそうだとも思った。


話は推理物の時代小説だ。
江戸時代の吉原で若い男が、色々な人に話を聞いて回る。それも正攻法ではなく吉原の説明を聞くということを建て前にして。男は何か意図があってこういう七面倒なことをしているようだがその意図は明らかにされない。小説は男が聞いた順にそれぞれの発言がただ載せられている、要はインタビュー集だ。
『事件』は話し手と聞き手(書き手)には共通認識でありかつ話し手が語りたがらぬため、読者は何人ものインタビューを経ないと『何が起こった』が明らかにならない。分かるのは、葛城というNo.1の花魁が不祥事を起こしたというくらいだ。こんな中途半端な状態で読者は吉原案内の様な話をずっと読まされる。
そもそも吉原に興味の無い人にはきっと詰まらないことだろうし、吉原に興味があってももどかしいことこの上ない。


私は落語の廓話を聞いたりしていて吉原に興味はあったけど、途中までは少し辛かった。しかし、そこをぐっと堪えて最終行まで読むと、謎はきちんと明かされ、そして序盤で説明された吉原の花魁の生活を思いだし、こんな辛い身の上にたった葛城を思い切なくなった。


この構成がベストかは分からないが、この構成だったから最後の切なさが感じられたと思う。

吉原手引草

吉原手引草