都筑道夫著『退職刑事6』

都筑道夫著『退職刑事6』創元推理文庫を読了した。

偶然この本に出会い何とは無しに手に取った為、邪道ながら6巻目から読むことになった。とは言っても短編集だったので途中までシリーズものだと気付かなかっただけだ。西澤保彦の論評によると最終巻のようだ。この本が短編ごとの時間的縦の繋りの薄い短編集でよかった。

第6巻を読む限り小説はこんな感じの設定のようだ。
『退職さん』は刑事を勤めあげ定年後は子供たちの家にいる。同じ職に就いた末っ子(『現役さん』のこと)の仕事の話を聞き推理をするのが好きで、過去の経験や連想から謎を解き明かす。『現役さん』(書き手『私』でもある)は仕事から遠ざかった父親の慰めのためと実際の事件解決のため父親(『退職さん』のこと)に事件のあらましを語り、懐かし話に脱線する話の起動修正をしながら推理を拝聴する。
舞台は『現役さん』の部屋で『現役さん』のネタ振りから始まり事件の説明、『退職さん』の推理と続く。
基本設定はこんな感じのようだが、他にもある。2人の友人で推理小説家の椿さんがサブキャラとして現れネタの提供や『退職さん』の昔話の話し相手をしている。『退職さん』『現役さん』の呼び名も彼の手によるものらしい。またこの話は安楽椅子探偵物なのだが、小説の中で『退職さん』を安楽椅子探偵らしくあれと椅子に押し込める役もしていた。
このような2人(時に3人)が推理を展開し事件の謎を解いていく話だ。

私は語り手や主人公は危険な目にあって欲しくないと思う。彼(女)が崖の上から落されそうになったり、何者かに追われたりするのはちょっと辛い。
だからせめて安楽椅子探偵というからには穏やかであって欲しいと思う。外界の陰惨さがフィルターを1枚通して語られることで、平和な世界で犯罪を調理されると安心して読めて良いと思う。もちろんそれで事件の陰惨さが消えるわけでも無いし増すこともあるが、ビビりな一読者としてはそれだけで安心なのだ。

『退職さん』は外に出ない。馴染みの居酒屋や喫茶店には出かけても事件に突っ込まない。非常に安心して読めた。椿さんGJだ。


非常にどうでもよい話だが、個人的メモとして。
昔は刺青が違法だったそうだ